夏目漱石 〜吾輩に読書の楽しみを教えてくれた人
- 公開日
- 2020/05/27
- 更新日
- 2020/05/27
お知らせ
太田中学校の皆さんへ(第18回)
★休校期間もあと4日となりました。6月からは、約2か月ぶりに学校が再開となりますが、感染に十分に気を付けながら、「恐る恐る」、「そろり、そろり」と再スタートします。皆さんは決して気を緩めず、緊張感をもって登校してください。
★さて、休校期間中の4月23日にスタートした私のブログでの発信も、18回目となりました。こんなに長く続けられるとは思っていませんでしたが、何とか休校中の皆さんに元気を届けよう、私の考えていることを伝えようとして、気付いたらここまで来ていました。残りの期間であと2回発信して、何とか区切りのよい20回までいきたいと思います。
★今回取り上げる人物は、「夏目漱石」(なつめそうせき)です。でも、今日は、これまでのように、漱石の生涯を皆さんに紹介するのではなく、少し私の大学生の時のことを知ってもらいたいと思って発信します。
★私は、大学生の時に、教育学部(教員をめざすための学部)で勉強しました。専門教科は国語です。まず1年生から3年生までで、教員になるために必要な授業に出て試験を受けたり、レポートを提出したりして決められた単位を取ります。そして、最終学年の4年で、一年間かけて自分の選んだテーマでじっくり追究をし、その成果を「卒業論文」にまとめて指導してくださった先生に提出します。その結果、提出した論文が「合格」となれば、めでたく卒業となるわけです。
★私が4年生の時に、一年間かけて追究した作家が「夏目漱石」です。まず、夏目漱石の作品(小説)を年代順に読んでいき、そこから自分でテーマを決めて追究し、最終的に自分が発見したことや自分の考えを論文にまとめます。私の追究テーマは、「夏目漱石の作品における比喩(ひゆ)表現の研究」です。比喩とは、「ある物事を、似ている、あるいは関係する別の物事を借りて表現すること。たとえ」です。「彼は太陽のように明るい」とか、「人生はドラマだ」などは、比喩を使った表現になっています。そういった比喩表現が、漱石の作品のどのような場面で使われているか、また、どのような比喩が使われているかというのを調べてまとめるのが私の研究でした。
★私は、「吾輩は猫である」から、漱石最後の(未完の)作品の「明暗」までを、比喩表現を探しながら、本に線を引いて丁寧に読んでいきました。最初はただ線を引いているだけでしたが、一冊、また一冊と読み進めるうちに、私はあることに気付いてきました。それは、「漱石の作品の中で比喩表現がたくさん出てくる(線がたくさん引かれる)場所は、どうやら作品の山場(クライマックス部分)に集中しているのではないか」ということ、そして、「漱石の比喩表現の対象(たとえるもの)は、ある作品を境(さかい)にして、変化しているのではないか」ということでした。
★これ以上詳しくは書きませんが、このように漱石の多くの作品に共通する点や特徴のようなものがなんとなく見えてきた(と感じた)私は、それ以降、漱石作品を読むのがものすごく楽しくなりました。私が見付けた漱石作品の特徴が正しいか正しくないかは別にして、自分なりに漱石作品に向き合えたこと、そして新たな読み方をする経験ができたことに充実感を覚えました。また、一人の作家の作品を一冊だけ読むのではなく、いくつか通して読んでみることで、その人なりの新しい発見ができるかもしれないという可能性も感じました。
★最終的に、私が提出した卒業論文は、400字詰め原稿用紙で120枚くらいになりました。私が大学生の頃には、現在のようにパソコンがありませんでしたので、すべて手書きで、万年筆で書きました。当然、一文字でも間違えれば、その原稿用紙は書き直しになりますので苦労しました。確か提出の締め切りが1月10日くらいでしたので、年末も、お正月も返上でひたすら書き続けました。厳しい冬の寒さと万年筆を握り続けた疲れから、手が固まったように動かなくなることもたびたびあり、お湯の中で手を温めてからまた書き続けるという繰り返しの作業でした。
★ちなみに、私が大学4年生で卒業論文と格闘(かくとう)していた昭和59年(1984年)の11月から、1000円札の肖像が夏目漱石になりました。あまりにタイミングがよかったので鮮明に記憶に残っています。
★今日は、皆さんが読書をする際の参考になればと考え、私の大学生時代の漱石作品の「読み方」を紹介いたしました。皆さんもぜひ、進んで読書をして楽しんでください。ちなみに、私が大学の時に購入して使っていたのは集英社の「漱石文学全集」(1冊ずつケースに入って全11冊)ですが、比喩表現を見付ける際に、どんどん線を引きながら読むために、新潮文庫(新潮社)の漱石作品もすべて買い愛用していました。教師になってからは、岩波書店の「漱石全集」も買って飾ってあります。
★「吾輩は猫である」、「坊っちゃん」、「三四郎」、「こころ」などで皆さんにもなじみのある夏目漱石の生涯について興味のある人は、ぜひ自分で調べてみてください。ポプラ社から「コミック版 世界の伝記 夏目漱石」という学習漫画も出ています。そして、漱石の作品も高校生くらいになればどんどん読めると思いますので、ぜひ読んでみてください。
★最後に、Webページで夏目漱石のことを見ていましたら、新潮社の「夏目漱石のトリビア」(雑学)というのが目にとまりました。いくつか紹介します。
1 ひと月に4キロのジャムを舐(な)めた。
2 最期(死ぬ直前)のことばは、「何か喰(く)いたい」
3 日本でいちばん売れている文庫本は、新潮文庫「こころ」
4 「ロマン」に「浪漫」と字を当てたはじめての人。
5 夕食には牛すき焼きを欠かさなかった。
6 飼い猫は、「ねこ」と呼んでいた。
★私たち太田中の教師も、ステイホームの期間中に、それぞれの先生がたくさんの本を読んでいました。学校再開後には、その読書の成果も発揮しながら、皆さんに「学ぶことの楽しさ」や「新しいことに出会う楽しさ」を紹介してくれることと思います。
太田中学校長 今井 東